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「診療行為に係る死因究明制度」に当会の見解

平成20年4月17日

特定非営利活動法人 医療と法律研究協会 理事長 上松瀬勝男

特定非営利活動法人「医療と法律研究協会」は、医療者と法律家の協同を特徴とし、医療についての理解を深め、質と安全の向上を図ることを目的にシンポジウム、研究会の開催、出版などの活動を行っている。

 

医療についての社会のニーズはますます高度化、多様化しており、特に安全な医療に対する期待は大きい。診療行為に係る死因究明制度については、平成19年4月20日厚労省が設置した「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」で議論が行われ、平成19年10月17日の第10回検討会にて「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案―第二次試案」が公表された。これについて当協会の見解を平成20年3月10日に公表した。

平成20年4月には「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案―第三次試案」が公表された。

 

第三次試案では、医療安全委員会(第二次試案では医療事故調査会)の設置は医療事故の原因究明・再発防止を行い、医療の安全の確保を目的としたものであり、医療関係者の責任追及を目的としたものでないとしている。

具体的には、@ 診療関連死について医療安全調査委員会へ届出の義務化(第二次試案では明記された罰則については不明)、A 医療安全調査委員会には医療関係者のみでなく、法律家、医療を受ける立場を代表する者(第二次試案では遺族の立場を代表する者)が含まれる、B 医療安全調査委員会が過失判断を行い、これに基づいて行政処分、警察への通報が行われる、C 調査結果を刑事、民事裁判で用いることが可能である、と規定している。新たな事項として、D システムエラーの視点を取り入れることにより個人に対する行政処分は抑制される、E 上記組織を設置することにより司法警察は謙抑的な対応を行うことが期待される、としている。

 

第三次試案の内容は表現に若干の変化が認められるものの、内容的には第二次試案と大きく異なるものではない。

現在の、医師法21条の拡大解釈による医療事故の警察への届出ではなく、医療事故による死亡原因を究明し、再発防止策を立案する組織を設置することについては当協会は賛成である。しかしながら、諸外国の経験、また他産業の知見に照らしても、原因究明、再発防止策立案のためには広く事例についての情報収集とその分析を行う必要があり、そのためには報告者の匿名化、免責、協力が不可欠であり監督官庁ではなく独立組織による運営、自発的な報告制度が原則である。

責任の明確化と処罰は、現行法に従い別の仕組みで行われるべきである。

ただ、この場合でも医療の不確実性に留意し、極力抑制的に行われるべきであることはいうまでもない。両者を同一組織で行おうとする場合には、ハイリスクの患者、救急の患者を忌避するなど医療の萎縮を免れることはできない。

 

診療関連死については、医療事故情報収集等事業の「医療機関における事故等の範囲」に基づくとされているが、現行基準は未だ医学会のコンセンサスを得たものではなく、また不明瞭であり解釈に混乱を少なからず生じている。実際、財団法人日本医療機能評価機構への届出件数も病院により大きく異なっている。

 

医療安全調査委員会の機能は、医学的検討とその他の事項とに区分すべきであり、前者は医療関係者、後者は医療関係者に加えて、安全の専門家、法律家、医療の提供・利用者の利害を代表する者などから構成されるべきである。

第二次試案で想定された遺族の立場を代表する者は、むしろ調査の客体となるべきであり、ちなみに、調査対象として極めて重要と思われる遺族についてこの試案では、何ら言及されていない。

構成員としては不適当である。第三次試案では、遺族の立場を代表する者に代えて医療を受ける立場を代表する者と表現が改められたが、厚生労働省の種々の検討会では医療事故被害者またはその家族が構成員となっており、必ずしも医療を受ける立場を代表しているとは考えにくい。

表現のみの改めにならないよう判断基準を明確にする必要がある。

 

医療安全調査委員会による強制的な調査に際しては、当事者の人権への配慮について第二次試案ではまったく言及されていなかったが、第三次試案では回答を拒否する権利のみが明記された。

法的に捜査権限を有する警察、検察が捜査を行う際には刑事訴訟法において人権に配慮した形で手続きが定められている。

調査報告書が捜査・裁判資料として利用可能であることからは、刑事訴訟法において定めると同様の配慮が必要である。慎重な検討が望まれる。

 

システムエラーの視点を導入することにより個人の行政処分の軽減を図るという考えには当協会は賛成である。

 

別紙3には、「捜査機関との関係について」として、医療安全調査委員会を設置することにより、あたかも司法警察は医療安全調査委員会からの通知がなければ捜査に容易に着手しないなど謙抑的な対応を行うことが期待される、とあるが、これについては現行の刑事法体系からはまったく実効性が想定されない。

警察、検察による捜査は、法的に付与された権限に基づいて行われ、厚生労働省内に設置された医療安全調査委員会の活動とはまったく別個のものである。まして、調査委員会の調査は強制力を有しないのであって、調査結果に信頼性があるという保証はない。

これについては誤解に基づき議論が誘導される恐れがあるので、事実関係を明確にすべきである。

なお、死亡事故を想定しているのは、医師法21条との関係からと思われるが、死亡に至らない傷害事故、廃疾事故も、医療事故としては死亡事故にまさるとも劣らない重要事故であり、医療の安全の見地から検討されるべきである。

 

医療安全調査委員会については、医療事故による死亡を警察へ届けるという現状を改めるための方策として検討された経緯がある。

警察への届出は、@ 高度にシステム化され、また常に不確実性を免れないという最新医療における、不幸な結果を医療関係者個人の責任追及という観点から捉えることの司法警察の論理的な限界、A 警察では一般に医療についての経験に乏しく原因究明が困難であること、B 診療記録などが警察に押収され、捜査上の秘密を理由に開示されないため、当該医療機関における原因究明、再発防止策の検討がしばしば困難であること、などの問題が指摘される。

これに対しては、現行の医療法においても、警察内での担当部署を別に設けるなどの運用上の工夫で、一定程度対応が可能であると、従来より当協会は主張してきた。

第三次試案においても、上記のような構造的な問題点が指摘される。

死因究明、再発防止策を検討する組織のあり方について、議論を一から見直し、医療関係者の十分な理解が得られるものとなるよう時間をかけて議論を行ったうえで制度を構築していくべきと考える。

 

なお、当協会としては、更に、検討を重ねて具体的な提言をしていきたいと考えている。

 

以上